Q&A
電気防食とはどのようなものですか?
金属の腐食がどのような環境条件で起こるのか,または起こらないのかを把握するには,電位-pH図が有用です。図-1 には,鉄の電位-pH 図を示しますが,この図では,腐食の起こり得ない領域(不活性域),腐食の進行する領域(腐食域)および鉄表面が不動態皮膜に覆われて腐食の進行しない領域(不動態域)の 3 領域が示されています。
図-1 電位-pH線図
いま,通常の土壌中や海洋中のような中性環境中における鉄の腐食防止について考えます。典型的な例として鉄が自然腐食状態にありA点の値を示すとすると,この鉄の腐食を防止するには次の三つの方法があります。
- 鉄の電位を不活性域まで卑方向へ移動させる。
- 鉄の電位を不動態域まで貴方向へ移動させる。
- 環境のpHを増大させ,不動態域まで移動させる。
1の方法がカソード防食法(cathodic protection)であり, 2の方法がアノード防食法(anodic protection)です。1と2の腐食防止法は,いずれも外部より電気的なしかけを用いて初めて可能となるため,両者を合わせて電気防食法といいます。ただし, アノード防食法は適用が特定の環境条件に限られ, 実用例が少ないため,通常電気防食法といえばカソード防食法を指します。3による効果は,例えばアルカリ性のコンクリート中の鉄筋が不動態化して腐食しにくい現象を示します。
電気防食法には, 流電陽極方式と外部電源方式とがあります。
(1) 流電陽極方式
流電陽極方式は,防食対象物にそれよりも卑な金属を電気的に接続し,両者間の電位差を利用して防食電流を流す方法です。卑な金属は流電陽極(galvanic anode),または犠牲陽極(sacrificial anode)と称されます。
流電陽極は,使用期間中,防食対象物に対して有効な電位差を保ち,しかも単位重量当たりの発生電気量が大きく,溶解が均一であることが要求されます。実用化されている流電陽極材料としては亜鉛,マグネシウムおよびアルミニウムの金属または合金などがありますが, 現在マグネシウム合金が最も多く使用されている土壌埋設パイプライン用犠牲陽極材料です。
土壌中で流電陽極を使用する場合には,陽極の接地抵抗を低くする目的と陽極の局部腐食を低減する目的で,陽極の周囲にバックフィルと称する充填材を使用することが一般的です。バックフィルの組成は一般に,石膏,ベントナイト,ぼう硝(硫酸ナトリウム)を3:6:1の割合に混合したものです。土壌抵抗率が200Ω・cm以下と低い場合には不要です。犠牲陽極と防食対象物との間に,犠牲陽極から防食対象物に流れる直流電流を定期的にモニタリングする装置を接続し,犠牲陽極の寿命を把握する方法を用いる例もあります。
現在,犠牲陽極は単に防食の目的のみに使用されているわけではありません。高圧架空送電線や電気鉄道に起因する電磁誘導電圧低減対策や雷対策として,パイプラインを低接地にするために犠牲陽極材料をパイプに電気的に接続する方法がとられています。このことを考慮すると,今後犠牲陽極材料の交流腐食度を加味した犠牲陽極材料の選定が必要になると考えられます。
図-2 流電陽極方式による電気防食の例
(2) 外部電源方式
外部電源方式は直流電源を用い,補助電極をアノードとし,防食対象物をカソードとして通電して防食電流を流す方法です。防食電流は直流であることから,直流電源を必要とします。補助電極には,鉄鋼,アルミニウムなどの消耗性電極を使用することもありますが,長時間使用に耐える耐久性電極を使用することが一般的です。
図-3 外部電源方式による電気防食の例
流電陽極方式と外部電源方式とを比較すると,表-1のような得失があります。
流電陽極方式 | 外部電源方式 |
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